胃がん
はじめに
胃がんは日本を含めたアジアに多い病気です。欧米諸国ではピロリ菌感染率が低いこともあり罹患率は低い病気です。
しかし近年日本では胃がん検診の浸透、ピロリ菌感染の診断および除菌治療が増加したこともあり、胃がんによる死亡率は低下傾向にあります。
性別では男性が女性に比べ約2倍ほど多いです。
胃がんの原因
胃がんの発癌機序はまだ不明ですが、大きく遺伝的要因と環境要因の2つが関係しており、これらが相互的に作用することにより発生すると考えられています。
環境的要因
食事 化学物質
胃がんの高リスク要因である代表的なものは食塩の過剰摂取です。
穀類や高でんぷん食が胃がんのリスクと考えられる報告もありますが、否定的な報告もあり統一見解ではありません。
その反面、ニンニクや玉ねぎなどのネギ族野菜の胃がん予防効果が報告されていますが、果物については有効な報告はありません。
生活習慣
喫煙やアルコール摂取が癌の発生に寄与しているとの指摘があります。
微生物
一番有名なものはHelicobacter pylori (H.ピロリ菌)です。
1994年に世界保健機構(WHO)がピロリ菌感染と胃がんの確実な関係について報告しました。ピロリ菌感染者は非感染者に比べ約3から6倍の胃がんリスクがあるとされています。
ピロリ菌感染によって前がん状態とされる萎縮性胃炎、腸上皮化生が発生し進行します。また動物実験によってもピロリ菌感染による胃がんの発生が確認されています。
しかし必ずしもピロリ菌感染率と胃がん発生率は相関しているわけではないので、実際はピロリ菌感染に加え宿主因子や環境因子が相互に関与してると思われます。
胃がんの症状
みぞおちの痛みや不快感などの症状で病院を受診することもありますが、胃がんに特徴的な症状は無く、無症状のまま進行がんとなって発見されることも少なくありません。
特に早期がんでは食道がんと同様にほとんど無症状であり、早期発見には積極的に胃がん検診などを受診する以外にありません。
現在では内視鏡検査などをした際に慢性胃炎の診断がされれば、保険にてピロリ菌感染の有無診断を行うことが可能です。
ピロリ菌も陰性で胃炎もほとんどない正常胃粘膜であれば胃の検査は数年に一回で構わないのですが、慢性胃炎(萎縮性胃炎)があり、ピロリ菌を除菌した方は、除菌後も胃がんのリスクがなくなったわけではないので年に一回の胃検診をお勧めいたします。
胃がんの診断
内視鏡検査及びX線検査
お互い優劣は一概には言えませんが、近年内視鏡機器の性能が向上したこともあり、小さな病変の診断は内視鏡が優れていると思われます。
胃がんの早期診断は粘膜のわずかな凹凸や色調の変化など、細かな所見を見つけることが全てです。場合によって色素を散布したり拡大内視鏡を用いたりして診断を行いますが、検査施行医師の診断能力(経験)によっても診断精度はかなり左右されます。
CT
他臓器癌と同様に胃がんの存在診断ではなく、治療方針のために多臓器への転移、リンパ節転移の有無の診断に有用です。主に術前診断や術後経過観察目的に用いられます。
腫瘍マーカー
まれに人間ドックでの有料オプションとして測定もされておりますが、胃がんの早期診断には腫瘍マーカーは有用ではありません。術後の再発や転移の予測のためCEAやCA19-9が定時的に測定されています
治療
早期胃がん
内視鏡治療が主に適応となりますが、病変の状態によっては外科的手術治療が選択される場合もあります。
内視鏡治療には従来行われていた内視鏡的粘膜切除(EMR)に加え近年では内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)によってより大きな病変も一括で切除可能となり、内視鏡治療の適応が広がりました。
ESDの長所は
- 大きな病変でも病理組織学的検索が正確に行える一括切除が可能
- 遺残や局所再発のリスクが少ない
- 潰瘍瘢痕を有する病変も切除可能なことが多い。従来のEMRでは困難でした。
しかしその一方で
- 時間がかかる
- 出血や穿孔などの合併症が従来法と比べ多い
- 手技がやや困難
などの欠点もありますが、それぞれの病変に適切な治療法を選択することが大事です。
ただし内視鏡で切除した病変でも内視鏡治療の適応で定められた部位より深く浸潤していた病変やリンパ管や血管内に癌が潜り込んでいた場合などは追加手術が必要になる場合があります。
進行胃がん
進行がんは手術治療が第一選択となります。
胃がんの手術は大きく分けて胃の2/3ほど切除する幽門側胃切除術と胃をすべて切除する胃全摘術に分けられます(胃の上部を切除する噴門部切除術や一部分のみを切除する胃部分切除も行われます)。それらすべての手術に対して現在腹腔鏡手術が広く行われるようになり、患者さんの術後の負担が減りましたが、病変が周囲臓器へ浸潤した場合などは開腹手術が行われます。
化学療法
切除不能、再発胃がんに対して延命や症状のコントロールを目的として全身化学療法がおこなわれています。