Gastrointestinal disease 消化管疾患 - 大腸がん

大腸がん

はじめに

大腸癌(結腸癌、直腸癌)は食生活の変化などとともに近年日本でも増加傾向にあり、厚生労働省の統計によると2005年には死亡者数が40000人を超え 30年前の約9倍に達しました。現在肺癌が死亡者数では最も多いですが、近い将来に大腸癌による死亡者数がそれを超えると予想されています。

 

大腸癌の原因

食事の西欧化に伴い、多量の動物性蛋白や脂肪の摂取と食物繊維の減少が大腸癌の発生に大きな役割をはたしていると考えられています。食物繊維等の摂取量が減ったため便が大腸内に留まる時間が長くなり、食べ物内に含まれていたりその代謝によって発生した発癌物質が大腸粘膜に接している時間が長くなり、癌化が引き起こされると考えられています。

50才代以降の中高齢者の癌は食事などの後天性要因が大きいですが、20才台や30才代の若年性の大腸癌では遺伝子要因も関与すると考えられていて、家族性大腸ポリポーシスや遺伝性非ポリポーシス大腸癌などがあります。

 

大腸癌の症状

肛門から癌ができている場所までの距離によって多少の症状の差があります。大腸癌の主な症状は血便や下血ですが、中には目に見えないレベルの出血が便に混じる程度(便潜血)であることも少なくありません。痔だといって肛門からの出血を放置していたため、癌が進行してしまうケースもたびたびあります。特に50才以降の方は肛門出血を認めた場合は一度医療機関で検査することが大事です。

癌が進行していくと大腸内の便が通過できるスペースが狭くなりますから、便秘症状やさらには腸閉塞(大腸癌イレウスといいます)になります。こうした場合には食事するとすぐに嘔吐したり、おなかが張ってきて排便や排ガスが全く認められなくなります。直ちに病院で入院し、処置が必要な状態となります。

 

診断

便潜血反応

成人検診などでよく行われる便潜血反応が最も容易な検査方法です。どこから起きた出血でも陽性になりますから、これが陽性であるといって必ずしもがん(癌)だとは限りません。反対に出血を起こしていないがん(癌)の場合、がん(癌)があっても便潜血反応が陰性となります。しかし最も簡便で費用も余りかからず、また疼痛なども全くありませんので優れたスクリーニング検査だと思います。ただし一番いけないことは一度陽性であったにもかかわらず二度目が陰性であったため様子をみましょう、いう方法です。いずれにしてもこの検査が一度でも陽性であった場合、必ず専門医療機関で大腸内視鏡などの検査をすることが大事です。

 

直腸診

外来で簡単にできる検査法です。主に肛門からせいぜい10cm以内の病変が対象になり、触診と肛門鏡を併用して行うのが一般的です。肛門に近い直腸癌や痔核、痔瘻などの診断に適しています。

 

大腸内視鏡

肛門から内視鏡を挿入しCCDカメラによって大腸内を観察する方法です。現在では電子スコープが一般的となりモニター上で観察が可能となっています。肛門から挿入し回腸末端(小腸の一番肛門側)まで挿入し観察するのが普通です。カメラの性能が向上したのに伴い大変小さなポリープまで発見することが容易になりました。内視鏡検査の大きな特徴はポリープなどを発見した場合、同時にポリープを切除することが可能なことです。良性のポリープのほとんどや、早期大腸癌の一部はこの内視鏡による切除によって手術をすることなく治癒が可能です。施行する医師の技術の向上や、内視鏡の改善に伴いほとんど苦痛無く行うことが可能で、大変優れた検査方法です。現在第一選択として用いられる大腸検査法でしょう。ただし現在内服している薬などによってはすぐにポリープの切除などが行えない場合もありますので医師に相談して下さい。

 

注腸検査

肛門よりバリウムと空気を挿入し大腸をX線で撮影する方法です。以前は良く行われていた検査で、全体像が見えるというメリットはありますが、大腸内視鏡が一般的に行われるようになった現在ではスクリーニング検査としてはあまり好ましいとは思いません。なぜならX線を用いることによる被爆や、大腸に多くの空気を挿入するため検査時の疼痛等もあるからです。手術を施行する際は病変の位置を把握するためや、病変の深達度判定に大変重要な情報をもたらしてくれますが、やはり病変を見つけるということに関しては大腸内視鏡にはかなわないと思います。場合によっては内視鏡と併用して行うのが勧められます。

その他CT、MRI、超音波内視鏡などがありますが、最近ではPET検査によって癌の検診を行う施設もあります。

 

大腸癌の治療

胃や大腸等の消化管は最も内側が粘膜、中心部分が腸を動かす筋肉、そして最も外側が漿膜と呼ばれています。
具体的には<粘膜>、<粘膜下層>、<固有筋層>、<漿膜下層>、<漿膜>の5層です。

 

早期癌

癌が粘膜内、または粘膜下層までにとどまるものを大腸癌取り扱い規約で早期癌と規定しています。早期癌は内視鏡的に切除する治療が主となります。

粘膜内もしくは粘膜下層へ軽度浸潤した癌の場合は内視鏡で切除できる事が多いです。しかし早期癌であっても粘膜下層へ深く浸潤していたり(1000µm以上)、癌が非常に広い範囲で拡がっている場合(直径2cm以上)や内視鏡で切除しても周囲の血管やリンパ管の中に癌細胞が浸潤している場合、また癌の中でも悪いタイプの組織型の場合は手術によって切除することが必要になります。また粘膜下層でも固有筋層に近い部分へ浸潤した癌では周囲へのリンパ節転移を認める可能性があり、手術による追加切除が勧められます。

 

進行癌

癌が固有筋層以深にもぐっている状態です。リンパ節転移や周囲の血管、リンパ管への癌浸潤の可能性が高くなり、所属リンパ節とともに手術によって取り除くことが必要です。内視鏡的に切除する対象にはなりません。手術で肉眼的に取りきれた場合でも、リンパ節などへ転移を認めた場合は術後補助的に抗癌剤の治療を行ったほうが、何もしない場合よりも治療成績が良いという結果が出ていますので、主治医と良く相談して適切な補助治療を行って下さい。

直腸癌等へは放射線療法を手術に併用して行う施設もあります。施設間に差はありますが、手術、抗癌剤治療、放射線療法を組み合わせ治療を行っていきます。

また進行性大腸癌には10%~20%の頻度で同時性肝転移があるともいわれていますので、こうした場合には肝転移に対する治療も必要になります。(切除可能であれば外科的切除が第一選択となります)

初回手術時に肝転移が無くても、術後しばらくして肝転移が出現する可能性もあります(進行癌では40%~60%の頻度ともいわれています)ので、手術後も厳重な経過観察が必要です。通常は腫瘍マーカー(CEA,CA19-9等)を採血でチェックしたり、CTや大腸内視鏡を用いて行っていきます。

 

手術方法

内視鏡で切除できない早期癌や比較的早い段階の進行癌は、小さな傷で終わる腹腔鏡を使用した手術で切除できる場合が多いです。病変の場所により様々な手術法があります。以前は早期癌に適応が絞られておりましたが、手術方法の普及に伴い適応が拡がってきました。しかし直腸癌で肛門に近い場所にある病変や、術前に明らかにリンパ節などへ転移している場合は従来の開腹手術(お腹を大きくあけて行う方法)を行う場合がほとんどです。それぞれの患者さんの状態や手術を行う施設によって手術法を選ぶ基準は様々です。主治医の先生とよく相談されて自分に合った手術法を選ぶことが大事です。

 

抗癌剤治療

手術したけれども癌がリンパ節や他の臓器に転移していたり、病変が手術で取れないほど進行している場合、抗癌剤治療の適応になります。現在は鎖骨の下からポートと呼ばれる器械を埋め込み鎖骨下静脈と呼ばれる太い血管へカテーテルを挿入し、そこから抗癌剤を注入する方法が一般的です。FOLFOXやFOLFIRIと呼ばれる方法があります。最近では分子標的薬のアバスチンと呼ばれる薬が国内でも使用できるようになり、FOLFOXやFOLFIRIと組み合わせて使用することにより効果が増すことがわかってきました。

以上簡単に書きましたが、これらの治療法はあくまで一般的な事です。それぞれの患者さんに対しては病気の状態やほかの疾患の有無、年齢など考慮して治療法を決めていかなければいけません。当院院長は横浜掖済会病院にてこれらの治療を実際に行っておりますので、詳しくは当院へ相談されて下さい。